第二章 僕の知らないオトンの顔

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 佑は肩に置かれた恵の手をそっと握ると、ゆっくり視線を上げる。 不安気に揺れる恵の大きな瞳を見詰めると、静かに問いかけた。 「俺のこと紹介したいんか?」 「やってっ……僕の相手は佑やし」 「なんて紹介するんや?」 「えっ?」 「俺のこと、なんて友達に紹介するんや?」  佑の質問に返す答えが見つからず、恵は言葉を詰まらせる。 「それはっ……」  必死で答えを探している恵に、佑は小さく溜息を吐くと言葉を続けた。 「……やめとき」 「えっ……」 戸惑ったような声を漏らした恵に、佑は安心させるように柔らかい笑みを浮かべると恵の手を取り両手で握り締め宥めるように優しく言い聞かせた。 「気持ちは嬉しいけどな、わざわざ事を荒立てるようなことは、せんほうがええやろ」 「せやけど……」 「それに俺、暫く忙しいし……時間作れへん。そう断ってくれるか?」  普段あまり家では見せない、大人の佑の顔に、恵はこれ以上この話題を続けることができなくなる。 納得した訳ではないが、佑が言うことも理解できた。 だから、これ以上、佑を困らせるのはやめようと。 「……うん。せやな……紹介できるわけないもんな」  苦笑いし自分に同意した恵に、佑は申し訳なさそうな顔をすると椅子から立ち上がった。 「ごめんな」 「…………」  そっと自分の頭を撫で、その場を離れて行った佑を、恵は目で追うと深い溜息を吐いた。
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