ジレンマと、二人。

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 子どもみたいに泣きじゃくるあたしは、どんな風に映ったのだろうか。  何を思ったのか、榎崎は突然あたしを抱き締めてきて。  いとも容易く、唇を奪った。 「……っ!?」  事態を把握するのに時間がかかったけど、少しずつ冷静になった頭で分析を始める自分がいた。  其処で出た結論というのが、榎崎は素人だということ。  ぎこちないし、恐る恐るというか、探るような口付け。  むしゃくしゃしていたというのもあるが、唇を離した榎崎の顔を捕まえて、反撃を開始した。  キスっていうのは、こうやってするもんなのよ! 「むぐっ、んっ……!?」  まさかの反撃に目を見張る榎崎に構わず、あたしはやけくそ気味に慣れた様子でキスをした。  角度を変えて、深く啄む。  その度に恐らく初心者の榎崎は戸惑ったみたいに身じろいで、僅かに戸惑いながら目を細める。  長く交わって同じ温度になっていた唇を離し、あたしはじろりと睨み上げた。  榎崎は動揺を隠し切れない様子で、口元を手の甲で押さえながら僅かによろける。  あまりにも情けない有様に、つい嫌味な毒を吐く。 「自分からしといて、何よその反応?  情けないわね」 「………まさか、仕返しされるとは思わなかったんだよ。  つーか、慣れてんな、これ」  苦笑しながら口元を指差す榎崎に、あたしは顔を背けながら鼻を鳴らした。  じっ、と横目に睨みながら、眉をしかめて口を開く。 「肩書き目当てでも、彼氏はいたんだから当たり前でしょ。  むしろ、まだまだこんなもんじゃないと思うけど?」 「ハ、ハハ……。  そ、それは遠慮しとくわー……」 「だったらもう諦めれば?  もう、しばらくの間は彼氏作るつもりないし。  うんざりした。  どいつもこいつも、形だけで気持ちなんてこれっぽっちもない。  ……もう放っといてよ」 「んー……。  それは、さすがにしないかなー」 「………は?」  やっぱり口が悪くなるあたしに向かって、榎崎は打って変わって笑顔を返してきた。  また、先程と同じような無邪気な笑顔。  不意打ちの反撃を食らって狼狽えていた姿は、もうなくなっていた。  ぽかんとしていたあたしの頭を撫でながら、榎崎が予想の斜め上をいく発言をする。
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