ジレンマと、二人。

2/54
前へ
/189ページ
次へ
 あたしの名前は麻木愛莉(あさぎあいり)。  実を言うとあたしは、近年急激に成長した【麻木グループ】のご令嬢。  本来なら金持ちの通うお嬢様学校へ行くべきなんだろうけど、あたしはあえてそれを選ばなかった。  その理由は後で話すとして……。  そんなあたしが付き合っていた彼氏と別れてから、もう数週間になる。  独り身になって迎えるクリスマスイヴ、あたしは補講で学校に来ていた。  いつものように寒い外気に震えながらも登校すると、親友の与那代嘉乃(よなしろかの)が席についてあからさまに落ち込んでいるのが目についた。  あたしは成績が悪い訳でもなかったとはいえ、家で黙々と一人で勉強するのが嫌だったから補講に参加した。  カノも其処まで成績が悪い訳でもないけど、あたしと同じように家でやるんなら学校で、という理由で補講に参加したはず。  だけど、あの落ち込みようはおかしい。  不審に思ったあたしは、思い切って普段と同じノリで声を掛けてみることにした。 「………はぁ」 「どうしたのよ、そんな溜め息なんて吐いて……。  運が何処かに飛んで行っちゃうわよ?」 「もういいもん。  運なんて、とっくに何処かへ行っちゃった後なんだもん……」 「はい? どういう意味?」  訳が解らなくて思わず顔をしかめるあたしに、カノはすべてのことを話してくれた。  この間、真野(まの)の義理の姉に偶然会ったこと。  其処で、真野のことが好きなのだと自覚したこと。  その時に双子の兄であるキノが、過去に真野を裏切ったことがあると打ち明けられたこと。  そしてその後、真野が可愛い女の子とリア充のようなことをしていて、ひどく傷付いたこと。  だから忘れようとしたけど結局忘れられなくて、泣いてしまったこと。  カノの話をすべて聞き終えた時、あたしの心を後悔の念が埋め尽くしていた。  それには思わず、怪訝な顔を浮かべてしまう。 「だから、真野は駄目だって言ったのに……。  まぁ、今回のはまったくの別件だけれども。  つらかったでしょ?」 「……別に」  そう言って不貞腐れた子供のように頬を膨らませるカノに、あたしは思わず苦笑いが零れてしまう。  はぁ、とつい溜め息を吐きながら、静かにカノを見つめた。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加