20人が本棚に入れています
本棚に追加
あたしの名前は麻木愛莉(あさぎあいり)。
実を言うとあたしは、近年急激に成長した【麻木グループ】のご令嬢。
本来なら金持ちの通うお嬢様学校へ行くべきなんだろうけど、あたしはあえてそれを選ばなかった。
その理由は後で話すとして……。
そんなあたしが付き合っていた彼氏と別れてから、もう数週間になる。
独り身になって迎えるクリスマスイヴ、あたしは補講で学校に来ていた。
いつものように寒い外気に震えながらも登校すると、親友の与那代嘉乃(よなしろかの)が席についてあからさまに落ち込んでいるのが目についた。
あたしは成績が悪い訳でもなかったとはいえ、家で黙々と一人で勉強するのが嫌だったから補講に参加した。
カノも其処まで成績が悪い訳でもないけど、あたしと同じように家でやるんなら学校で、という理由で補講に参加したはず。
だけど、あの落ち込みようはおかしい。
不審に思ったあたしは、思い切って普段と同じノリで声を掛けてみることにした。
「………はぁ」
「どうしたのよ、そんな溜め息なんて吐いて……。
運が何処かに飛んで行っちゃうわよ?」
「もういいもん。
運なんて、とっくに何処かへ行っちゃった後なんだもん……」
「はい? どういう意味?」
訳が解らなくて思わず顔をしかめるあたしに、カノはすべてのことを話してくれた。
この間、真野(まの)の義理の姉に偶然会ったこと。
其処で、真野のことが好きなのだと自覚したこと。
その時に双子の兄であるキノが、過去に真野を裏切ったことがあると打ち明けられたこと。
そしてその後、真野が可愛い女の子とリア充のようなことをしていて、ひどく傷付いたこと。
だから忘れようとしたけど結局忘れられなくて、泣いてしまったこと。
カノの話をすべて聞き終えた時、あたしの心を後悔の念が埋め尽くしていた。
それには思わず、怪訝な顔を浮かべてしまう。
「だから、真野は駄目だって言ったのに……。
まぁ、今回のはまったくの別件だけれども。
つらかったでしょ?」
「……別に」
そう言って不貞腐れた子供のように頬を膨らませるカノに、あたしは思わず苦笑いが零れてしまう。
はぁ、とつい溜め息を吐きながら、静かにカノを見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!