1・エベンドーの卑劣と透心流拳術

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エベンドーという格闘技がある。 エベルキン大国の国技である。 足技を主体とする打撃系の格闘技で、スポーツ化されていた。 日本の空手をベースに造られたのだが、それは公然の秘密であり、エベルキン大国固有の成り立ちとされている。 これはエベルキン人特有の性癖である、いわゆる起源捏造の産物だ。 一般にも広く行われるが、エベルキン大国軍の正式採用格闘技でもあった。 近年になり、天才と呼ばれるエベンドー選手が現れた。 エベンドー国内選手権優勝、軍隊内選手権優勝をなした、「ケリツ・ブス」、24歳である。 身長198センチ、体重115キロ、の恵まれた身体から出す蹴りは、それ相応な威力がある。 特に日本のテレビの格闘技番組に呼ばれ、度々出ており、その名が知られていた。 一方、国内では名は知られてないが、日本に伝わる透心流拳術 21代目師範、青葉深太郎、55歳は、2年前、エベルキン大国から、招きを受けた。 身体を触れずに、相手にダメージを与える技である『遠当て』を得意とする拳法で、離れて闘えば、あらゆる格闘技を凌駕する可能性が隠されている。 しかし、技が特異なため、オカルト的で胡散臭い古武術、というのが、国内での評価だった。 招かれた理由は、 一見すると、いい話に聞こえるものだった。 招かれるしばらく前、半ば、道場破りのように訪問してきたエベンドーの師範を、軽くあしらったことがあった。 この話しが、エベルキン大国に流れ、エベルキン大国内のある道場主が、その素晴らしい技術を、エベンドーを学ぶ子供達に見せてほしい、と、招いたのだ。 青葉深太郎は、あまりに繰り返されるしつこい招きにへきえきしてしまい、とにかく一度だけお願いしたいと言う相手の話しを信じ、おわらせるため、エベルキンに飛んだ。 しかし、帰国したときは、足に重傷を負い、腕は骨折、身体は打撲だらけであった。足は、いまだに不自由なままだ。
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