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その『A』の札が立つテーブルには、燈のよく知る顔があった。先に気が付き、声をかけてきたのは相手の方だった。
「なーんだ、やっぱりな。燈もテストプレイヤーに選ばれてたんだ」
ツンツン頭のメガネ男子が軽く片手を挙げ、にやりとしてみせた。
「京志郎(きょうしろう)! そーか、まあ、たぶん、お前も選ばれてるんじゃないかと思ってたよ」
燈と京志郎は一年ほど前、あるネットゲームで知り合い、ゲーム中のチャットで家が近いことがわかってから、実際に会って遊ぶようになった仲だ。京志郎もゲームでは燈に負けない成績を残してる。
「燈、相変わらず、時間ギリギリだなー」
「余裕でしょ。ちゃーんと三分前に着いてるじゃん」
「それがギリなんだってば……って、それより、えーと……その娘(こ)は?」
京志郎の視線はすでに燈を素通りして、その後ろに隠れるように立っている少女のほうに向けられていた。
「え? あ……いや、俺も今そこで会ったばっかりだから。えっと……そういえば自己紹介してなかったっけ。 俺は『友坂・燈(ともさか・ともる)』。で、こいつは『風間・京志郎(かざま・きょうしろう)』。えーと、君は……」
「あ、私『黒河・香菜(くろかわ・かな)』っていいます」
香菜は会ったばかりの男子二人を前に少し緊張しているような笑顔を見せた。
「俺たち高ニなんだけど、黒河さんは……中学生?」
「え? ……いちおー高校生です。先月、高校に入学したばっかですけど」
「え、そうなの? えーと……ごめん」
京志郎がちょっと申し訳なさそうに頭をかく。香菜は少し拗ねたような表情を見せたが、すぐ笑顔に変わった。
「へへ、気にしてません。去年まで、たまに小学生に間違われたぐらいなんで」
「「あー、やっぱ……」」
思わず燈と京志郎の声がダブった。
「やっぱり……?」
「「いや……別に」」
またしても燈と京志郎の声がダブった。香菜は一瞬、ジト目で燈と京志郎を見たが、すぐに話題を変えてきた。それほど気にしてはいないようだ。
「友坂さんたちはどこ高校ですか? っていうか、お家どの辺なんですか?」
「あー、俺たち高校は別々だけど、二人とも横浜に住んでる。黒河さんは東京?」
「私、埼玉。最寄駅までバスで、駅は各停だから、ここまでちょっと遠かったー」
「そりゃ大変だったね」
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