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「大丈夫だってばー」
膨れっ面になって言い返すが、一帆は耳を貸さない。手を繋いだまま楼門をくぐると、渡された縄に夥しい数の御神籤が結ばれていた。
人波をぬいながら階段を上がると、拝殿があり、初詣客が次々とお賽銭を投げ入れては神妙な顔で手を合わせる。毎年変わらぬ光景だ。
「いくら入れる?」
「ご縁があるように、今年も五円」
鈴を鳴らし、賽銭を入れ、二礼二拍手一礼。
―――大切な人達が、今年一年、元気で過ごせますように。あ、もちろん私も。
早苗は小さな手を合わせて願った。
「んじゃ、御神籤引こっか」
「うん」
早苗の年に一度の楽しみが、この御神籤を引く瞬間だ。
「小吉だった。まあまあかな。早苗は?」
御神籤を凝視したまま、早苗は一帆の問いにも無反応。
「どうしたの?」
一帆が横から覗き込むと、そこには紛うことなき凶の文字。早苗にとって、人生初の凶だった。
「かずちゃあああん……」
両目にたっぷり涙を溜めて、早苗は一帆を見上げる。
「突発的な怪我に注意とか書いてあるよう……」
「大丈夫だよ、御神籤なんだから。年明け早々泣かないでよー」
参拝客がすれ違いざまにふたりをじろじろと見ていく。小さい子をあやすように、一帆は一生懸命早苗の頭を撫でて、ハンカチで目元を拭ってやった。
「利き手じゃないほうで結ぶと吉に転じるって聞いたことがあるよ。やってみたら?」
一帆はいつもこんな調子だ。その他大勢には実にさばさばした態度で接するが、早苗のこととなると何故か必要以上に世話を焼いてしまう。
早苗にとっても、頼りになる一帆は気が置けない大事な友人だ。
「お守り見にいこ、お守り!」
苦戦しながら何とか左手で御神籤を結びつけた早苗を元気づけようと、一帆が笑顔を作って促した。
難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花……
―――――To be continued...
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