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男性の言うことがなかなか理解できず、早苗は目をぱちくりさせてしまう。
「神様をストーカー扱いするとはいい度胸してるな、ちっこいの」
「え……だって……。神様だっていう証拠はあるの?」
思い切って尋ねた早苗を、客間から呼ぶ声がした。
「早苗ちゃーん、何してるのー? こっちに入っておいでよー」
「あ、はーい!」
言われた通りに立ち上がり、廊下の明かりを消して襖を開ける。
「証拠ならこれから見せてやるよ」
背後で男性の声が聞こえた。
客間では、十二人が大きなテーブルに乗った酒肴を囲んでいる。お節に刺身に鍋、鯛飯まですでに並んでいた。
空いていた末席に座る。『自称神様』も一緒に客間に入ってきたが、誰も何も言わないし、男性のほうを見る様子もない。
「早苗ちゃん、少ないけどこれお年玉ね」
「ありがとうございます」
親類ひとりひとりに、丁寧に頭を下げる早苗。叔父たちがくれるお年玉は、毎年欠かさず母親に預け、貯金してもらうのが常だ。
「知ってるか? お年玉の『たま』は、『魂』のことなんだぜ」
ポチ袋を隣から覗き込んで、男性が講釈する。
早苗は困惑してしまった。確かに此処に座っている男性。なのに、早苗以外誰一人として気にする人がいない。
着物は品のある深紫。濡羽色の長髪。髪型と顔立ちをよくよく見ると、芸能人かというくらい整っている。
「どうした、早苗。そっぽを向いて」
父親に窘められて、早苗ははっと我に返った。
「ごめんなさい、何でもない」
―――やっぱり見えてない。
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