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『自称神様』は、早苗の隣にどっかりと腰を落ち着けて含み笑いをしている。
「お待たせ。熱燗の追加よ。早苗、皆様にお酌して差し上げて」
母親が梅錦に燗をつけて戻ってきた。徳利を持って、早苗はひとりひとりにお酌をして回る。
「俺も飲みたい。できれば神酒がいい」
彼が喋っても、やはり誰も反応する人はいない。早苗だけに、声が聞こえる。
「ところで早苗ちゃん、彼氏はできた?」
叔母が聞いてきた。やたらとお節介で不躾な親戚というのはどこの家庭にもひとりはいるのかな、と早苗は言葉を濁しながら曖昧に笑った。
「男を作るには、もうちょっといろんなところを成長させねえとなあ」
早速酒に飲まれたのか、いとこの大学生、昭正が赤ら顔で絡んでくる。
早苗は童顔、低身長、それに加えてだいぶ幼児体型気味だ。コンプレックスを大勢の前で指摘され、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
「おい、ちっこいの。そんな奴の言霊をまともに受け取るな。穢れがうつるだけだ」
不意に肩を抱かれて、早苗はびくりと身を震わせる。
「あら、まだ十六歳だもの。化けるのはこれからよ」
「数年後誰もが振り返る美女になったら、土下座付きで詫びてもらおうか」
両親が場を取り成した。慌てて正座して謝る昭正。
「土下座てマジすか!? 早苗ちゃんごめん、失言でした!」
「酒に飲まれるようじゃ、昭正くんもまだまだ未熟だ」
御園家家長自ら、笑いを誘う。途端に場がわき返った。
―――本当に、神様なのかもしれない。
今までに感じたことのない胸の高鳴りを覚えながら、早苗の気持ちは信じるほうへと傾きはじめていた。
―――――To be continued...
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