第1話

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時刻は深夜を回ったが、まさに宴たけなわ、お開きになる気配など微塵もなかった。 大人は夜を徹して飲み明かす。毎年恒例、これが御園家の正月だ。 早苗は先に休む旨を母親に伝え、入浴を済ませた。 湯冷めしないようにパジャマの上に半纏を着込み、階段をあがって自室へと戻る。 「どうだ、信じる気になったか、ちっこいの」 襖を開けた早苗はぎょっとしてしまった。和服の男性が部屋の真ん中に陣取って、盃で何かを飲んでいる。 「あ! それ、私が買ってきた御神酒」 男性が手酌で飲んでいるのは、まさに早苗が昼間神社で買い、父が神棚に供えたはずの神酒だった。 「なかなかいい出来だ」 「お供え用に買ったのに、どうしてあなたが飲んでるの」 「神が神酒を飲んで何が悪い」 堂々と言ってのけ、盃を口へ運ぶ男性。早苗はストーブのそばへ寄って、畳の上に正座した。聞きたいことが山ほどありすぎて、混乱してしまいそうだった。 「……ええと……神様は、どうしてうちにいらしたの?」 自ら神様と言うなら、信じてみよう。そう思った早苗は、話の口火を切った。 「あんた、神社で守札を貰ったろう」 「まもりふだ? お守りのこと?」 早苗はバッグの中から、昼間買った厄除けのお守りを取り出す。 「そうだ。分霊は知ってるか」 「分霊?」 「神職が神前でお祓い、祈祷したうえで授与するのが守札だ。そこには神が宿る」 男性はまた神酒を盃に注いで、ぐいと飲み干す。 「じゃあ、神社からついてきたっていうのも本当なんだ……」 「同じことを何度も言わせるな、ちっこいの」 「ちっこいのって呼ぶのはやめて。私には早苗って名前があるんだから」 早苗はむっとして思わず言い返した。 「そうか、すまんなちっこいの」 ……聞いてないし、と溜め息をついてしまう。
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