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時刻は深夜を回ったが、まさに宴たけなわ、お開きになる気配など微塵もなかった。
大人は夜を徹して飲み明かす。毎年恒例、これが御園家の正月だ。
早苗は先に休む旨を母親に伝え、入浴を済ませた。
湯冷めしないようにパジャマの上に半纏を着込み、階段をあがって自室へと戻る。
「どうだ、信じる気になったか、ちっこいの」
襖を開けた早苗はぎょっとしてしまった。和服の男性が部屋の真ん中に陣取って、盃で何かを飲んでいる。
「あ! それ、私が買ってきた御神酒」
男性が手酌で飲んでいるのは、まさに早苗が昼間神社で買い、父が神棚に供えたはずの神酒だった。
「なかなかいい出来だ」
「お供え用に買ったのに、どうしてあなたが飲んでるの」
「神が神酒を飲んで何が悪い」
堂々と言ってのけ、盃を口へ運ぶ男性。早苗はストーブのそばへ寄って、畳の上に正座した。聞きたいことが山ほどありすぎて、混乱してしまいそうだった。
「……ええと……神様は、どうしてうちにいらしたの?」
自ら神様と言うなら、信じてみよう。そう思った早苗は、話の口火を切った。
「あんた、神社で守札を貰ったろう」
「まもりふだ? お守りのこと?」
早苗はバッグの中から、昼間買った厄除けのお守りを取り出す。
「そうだ。分霊は知ってるか」
「分霊?」
「神職が神前でお祓い、祈祷したうえで授与するのが守札だ。そこには神が宿る」
男性はまた神酒を盃に注いで、ぐいと飲み干す。
「じゃあ、神社からついてきたっていうのも本当なんだ……」
「同じことを何度も言わせるな、ちっこいの」
「ちっこいのって呼ぶのはやめて。私には早苗って名前があるんだから」
早苗はむっとして思わず言い返した。
「そうか、すまんなちっこいの」
……聞いてないし、と溜め息をついてしまう。
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