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「でも、初詣でお守り買う人なんて、ごまんといるでしょう?」
男性は飲むのをやめ、とん、と盃を畳の上に置く。
「この穢土(えど)にあって、あんたみたいな清い現人(うつせみ)は相当レアなんだぞ。だから目に留まったんだ」
早苗をじっと見つめ、意味深に笑う男性。その真っ直ぐな視線を受け止めきれず、早苗は頬を紅潮させてしまった。
「わ、私、ほかの人と何か違うの? あなたは、ほかの人には見えてなかったみたいだけど」
「俺たちみたいな神様と呼ばれるものは、現人たちが信じなければ存在できない。信仰心あってこその神なんだ」
男性はさらりと髪を払って続ける。
「信じる人々の思いや願い、祈りが俺たちを作ってる。だけど、誰にでも見えるわけじゃない。あんたは厳しい条件をクリアした希少種ってこと」
あまりにも突拍子のない話に、早苗は鳩が豆鉄砲を食らったような顔つきになった。
「それに、ここは神域に近しい清浄さだ。居心地いいぞ」
そう言って、男性は畳の上にごろんと大の字になってしまった。
「あの……あなたの名前は……」
「ん? あんたも知ってるだろ。伊豫豆比古命だよ」
「イヨズヒコノミコト…………!!」
参道入口の鳥居。その傍の大きな石碑に彫られた文字が脳裏に蘇り、瞬時にして早苗の顔色が変わった。
「しっ、失礼つかっ、つかまつりましても、も、申し訳ござっございません!」
吃りまくりながらも、恐れ入って平伏してしまう。
「あー鬱陶しいからそんな堅苦しくなるな、いつも通りでいろ。俺寝るわ」
「えっ、ここで?」
驚く早苗に構う様子もなく、男性は畳の上で寝息を立て始めてしまった。気がつけば御神酒はもう空だ。
「神様も眠るんだ……」
端から見れば、美形の男性。神様などとどうして思えようか。早苗は若干複雑な気持ちを抱えながら、押入から予備の掛け布団を出して眠っている神様にかけてやり、自分も床についた。
―――――To be continued...
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