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春過ぎて 夏来るらし 白妙の 衣干したり 天香具山……
「すべてのものには、神様が宿っているんだよ」
「どんな時でも、神様は私たちのことを御覧になっているのよ」
信心篤い両親に大切に育てられ、少女は十六歳になった……。
* * *
「明けましておめでとう」
気持ちも新たに始まる、日本の正月。
『そこ』は、沸き立つような活気で溢れかえっていた。
駐車場や境内にまで、的屋が目白押しになる。
御園早苗十六歳が、友人の越智一帆とともにそこを訪れたのは、日も傾いだ午後四時。
ここは、伊豫豆比古命神社。通称椿神社と呼ばれている。
初詣客でごった返す時間帯は過ぎているものの、駐車場に入ろうとする車の列はまだ途絶えない。
ふたりは駐輪場に自転車を止め、まず昨年買ったお守りを古札納所に納める。
「わりとあったかくてよかったね」
早苗が言う。今日は薄曇りで風も弱い。
「私はほかのみんなと夜中に来たかったなー」
「ほんとにごめんねー、うち深夜の外出禁止だから」
「お正月ぐらい大目に見てくれてもいいのに。早苗の家厳しすぎ」
そう会話しながら、ふたりは一礼して鳥居をくぐり、手水舎で手を洗い口をすすいだ。早苗の両親は信心深い。子供の頃から躾られたので、作法はきちんと頭に入っている。
「早苗、手繋ご」
言うが早いか、一帆は早苗の手をぎゅっと握った。
「かずちゃん、そこまでしなくても」
「あんたはただでさえちっちゃいんだから、はぐれたらなかなか見つけられないよ」
一帆の言う通り。早苗は高校一年生だが、身長が145センチほどしかない。その上童顔ときている。生徒手帳を呈示しないと、いとも簡単に小学生扱いされてしまう。
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