76人が本棚に入れています
本棚に追加
/725ページ
「かずちゃんは何にするの?」
「今年は開運にしようかな。早苗は?」
「……厄除けにする」
「大丈夫だって、気にしすぎるとよくないよ」
一帆は開運のお守り、早苗は厄除けの赤いお守りに決めた。
伊豫豆比古命神社は何故椿さんや椿神社と言われるのか。境内一帯に各種の椿が自生しているのでそう呼ばれる、と早苗は小さい頃どこかで聞いた覚えがあった。
早苗が買ったお守りにも、椿の柄が綺麗に刺繍されている。見ているだけで、身体の中が清々しさで満たされたような気分になれた。
「一年間、守って下さい!」
お守りを捧げ持って、お願いしてしまう早苗。
「ほらほら、ほかの人の邪魔になるから」
一帆が行き交う人々にすみません、と会釈をしながら、早苗を引っ張って通路の端へ寄った。早苗も泡を食って頭を下げる。
「全くあんたって……」
ぶつぶつ言いながらも、笑顔をこぼす一帆。
「何がおかしいの?」
一帆のほうが二十センチほど背が高いので、早苗はいつも彼女を見上げて喋ることになる。
「何でもない。そのまんまでいてよね」
笑いながら、一帆は早苗の頭をがしがしと撫でる。手のかかる可愛い妹みたい、と思っているのは本人にはずっと内緒にするつもりでいる。
「あ! 忘れてた御神酒を頼まれてたんだ」
一帆が、こいつ本気で忘れてたな、と思ってしまうほどの驚き具合。
ほどなくして早苗は御神酒の二本入った袋を下げ、戻ってきた。
「お待たせー」
「持とうか?」
最初のコメントを投稿しよう!