第1話

4/725
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/725ページ
「かずちゃんは何にするの?」 「今年は開運にしようかな。早苗は?」 「……厄除けにする」 「大丈夫だって、気にしすぎるとよくないよ」 一帆は開運のお守り、早苗は厄除けの赤いお守りに決めた。 伊豫豆比古命神社は何故椿さんや椿神社と言われるのか。境内一帯に各種の椿が自生しているのでそう呼ばれる、と早苗は小さい頃どこかで聞いた覚えがあった。 早苗が買ったお守りにも、椿の柄が綺麗に刺繍されている。見ているだけで、身体の中が清々しさで満たされたような気分になれた。 「一年間、守って下さい!」 お守りを捧げ持って、お願いしてしまう早苗。 「ほらほら、ほかの人の邪魔になるから」 一帆が行き交う人々にすみません、と会釈をしながら、早苗を引っ張って通路の端へ寄った。早苗も泡を食って頭を下げる。 「全くあんたって……」 ぶつぶつ言いながらも、笑顔をこぼす一帆。 「何がおかしいの?」 一帆のほうが二十センチほど背が高いので、早苗はいつも彼女を見上げて喋ることになる。 「何でもない。そのまんまでいてよね」 笑いながら、一帆は早苗の頭をがしがしと撫でる。手のかかる可愛い妹みたい、と思っているのは本人にはずっと内緒にするつもりでいる。 「あ! 忘れてた御神酒を頼まれてたんだ」 一帆が、こいつ本気で忘れてたな、と思ってしまうほどの驚き具合。 ほどなくして早苗は御神酒の二本入った袋を下げ、戻ってきた。 「お待たせー」 「持とうか?」
/725ページ

最初のコメントを投稿しよう!