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「子供扱いしすぎ!」
ふくれて早足で歩き出す早苗に、すぐ追いつく一帆。歩幅の違いは歴然としている。
「そんな怒んないでよー。何か奢るからさ」
「ほんと!?」
途端に目を輝かせる早苗。まるで小動物に見えてしまい、一帆は笑いを必死に堪えなければならなかった。
「かずちゃん、私たい焼きがいいなー」
早苗は良く言えば、癒し系で純真無垢の絶滅危惧種。悪く言えば、空気の読めない超天然というカテゴリに入ってしまう人種だ。
五分後。
「かずちゃんありがとーう。いただきまーす」
たい焼きを奢って貰って、喜色満面で頬張る早苗。
食べ終わった包み紙をコートのポケットに入れるところなど、育ちの良さがそのまま長所になってるんだろうな、と一帆は思わざるを得ない。
「このあとどうする? あたし本屋へ行こうかなと思ってるんだけど」
自転車置き場に戻り、一帆は尋ねた。
「夜親戚が集まるから、早めに帰ってきて手伝いなさいって言われてる。だからそろそろ帰らなきゃ」
「本家って大変だね。頑張れ」
「うん、ありがと。じゃあまたね」
「またメールするねー」
手を振り合って、ふたりは別々の方向へ自転車をこぎ出す。
早苗の頬を撫でて吹きすぎてゆく、冷たくてもどこか爽快感を伴った風は、御神籤で凶を引いてしまったことなど忘れさせてくれた。
―――――To be continued...
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