79人が本棚に入れています
本棚に追加
/725ページ
冬至からまだ十日あまり。夕方五時を過ぎると日が沈み、急激に暗くなる。
瞬く間に色彩の移りゆく夕空。霞がかった青空は牡丹色のグラデーションを経て、瑠璃紺へと変わっていく。
早苗の家は神社から六百メートルほどの、閑静な住宅街の中にある。
御園家はこの地域では所謂代々続く名家。敷地は約五百平方メートル、数寄屋造りの母屋は六十坪を超える大きさだ。
広い庭園には松、梅のほか、榊や櫟(イチイ)も植樹され、きちんと手入れがなされている。早苗が小さい頃はよく友達が集まって遊んだものだ。
門の両脇には立派な門松。
外灯はもちろん、家の中にも明かりが入っており、駐車場にはよその車が二台。もう親類が来ているらしい。急いで自転車を止め、荷物を持つ。
「!?」
夜の帳が連れてきた冷たい風に身震いしつつ、玄関へ向かおうとした早苗の足が止まった。
傍に、着物に羽織姿の男性が立っている。
「あっ、あのっ、何か」
気配も何もなかったのであまりにも驚いてしまい、あたふたしながら早苗は声をかけた。
……だが、男性はいつまで待っても無反応。庭を眺めてはどこか満足げに目を細めている。
埒が明かない、と早苗は男性の正面へ回り込んだ。
「すみません、うちに何か御用ですか?」
身長差四十センチはあるだろうか。見上げていると首が痛くなってしまいそうなくらいの長身。
「…………えっ?」
「だから、うちに御用ですかって……」
男性はしばらくきょとんとした顔で早苗を見つめていたが、やがて屈み込んで口を開いた。
「あんた、俺が見えるのか?」
最初のコメントを投稿しよう!