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目を開けると、そこには見慣れた天井と照明器具。
……カーテン越しに入ってくる光はやけに明るい。外から雀の元気なさえずりが聞こえる。
それもそのはず、時刻はもう午前十時になろうかというところ。
ふと隣を見る。守札の主の布団はとうに上げられていた。気怠い身体を起こしてみるが、やはり早苗はいない。学校か、とぼんやり考える。
やっとのことで、今年の神議りが終わった。柄にもなく寝過ごしてしまうくらい、例年になく疲れる縁結びだった。
袍を脱いで単と大口袴姿で眠っていたのだと、今更気づく。
この家にイヨズヒコの着替えまでは用意されていない。イヨズヒメが持ってくるのを気長に待つしかない。
…………早苗のいないこの部屋は、退屈だ。
もう一度、ごろりと床へ横になる。
早苗について初めて此処へ来たのは、今年の元日。あれから十ヶ月が経ってしまった。
『汝……端から『選んだ』のではあるまいな』
以前、瀬織津姫に詰め寄られたことがある。あの場では白を切ったが、彼の女神の言うことは的を射ていた。
椿神社の初詣客は、毎年約十五万人。十五万人の中で、『ちっこいの』は異彩を放っていた。とびきりを見つけて、イヨズヒコは分霊先に早苗を選んだ。
自分の目に狂いはなかった。時とともに早苗は目に見えて熟れていく。遠く出雲から超大物が足を運ぶほどに。
鬼が噂を広めたために羨望の的となり、いつ誰が押し掛けてきてもおかしくない状況は続いている。
此処に、いつまで居られるか。
考えない日は、ない。
「あなた」
呼びかけと同時に、コンコンとガラスを叩く音。立ち上がって、カーテンを開ける。
「其方か」
サッシを開けて入ってきたのは、言わずと知れた妻であるイヨズヒメ。なんというタイミングで入ってくるんだ、などとうっかり言えぬ。
「お着物をお持ち致しました」
落ち着いている時はそこそこ妻らしいのに、悋気の強さは並ではない。
「そのお姿では外出もままならないでしょう?」
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