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「お母さんお母さんお母さーん!!」
震えてしまう手で玄関の施錠をし、早苗はばたばたと台所へ直行した。
「お帰り、どうしたの早苗。騒がしいわね」
早苗の母は割烹着姿で、客に出す料理の準備に忙しなく働いている。
「すっ、ストーカーにつけられた! すぐそこまで入ってきた!」
「何ですって!? 本当?」
包丁を持った母親の顔色が途端に変わった。
「本当……」
「ちょっとあなた、あなた!! 呑気に飲んでる場合じゃないわよ!!」
早苗が言い終わらないうちに、母親は慌てて宴会が行われている客間へと行ってしまった。
三分後。
「女たちは決して外に出ないように。念のため戸締まりをもう一度確認しておきなさい」
和やかな宴会の雰囲気が一変した。娘の身に差し迫った危機を除くべく、早苗の父はヘルメットに安全靴、手にはゴルフクラブと懐中電灯というフル装備で外へ見回りに出ていく。
親類のおじやいとこたち男衆も、外から安全を確認すると言って、御園家の家長に続いた。
「さ、戸締まり戸締まり。早苗は二階を見てきてね」
「うん」
自分の荷物を持って、早苗は二階にあがった。
御園家には洋室がない。台所と水回り、窓サッシは数年前にリフォーム済みだが、古い趣は今もそのままに残っている。
二階の三室のうち、一室が早苗の部屋だ。荷物を置いて、コートを脱ぐ。
「凶なんて引いちゃったから、新年早々こんな目に遭ったのかな……」
明かりをつけて窓の施錠を一箇所ずつ確認しながら、早苗は独語した。
―――カミサマなんて。きっと冗談だよね。
天然だの馬鹿正直だの、この十六年でさんざん言われてきた早苗だったが、さすがにあの神様発言は頭から信用する気になれなかった。
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