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目の前には見慣れない天井がひろがっていた。
薬品のような匂いもする。
何より身体全体がズキズキと痛む。
「......ここは、どこだ?」
知らずと言葉が漏れる。
それは、とても小さな呟きだった。
誰かに対して言ったわけではない。
だが、予想に反し返事が返ってきた。
「つ、月見くん!? だ、大丈夫なんですか!? 」
かなり慌てている。
首を動かそうとしたら激痛がしたので、目だけで声の出処を探る。
すると、目を赤く晴らした綺麗な女の子が座っていた。
髪は長く腰まで届きそうだ。
目尻に涙をため、今にも泣き出しそうな女の子。
頬には少し朱が差している。
儚く、触れたら壊れてしまいそうだ。
だが、こんな綺麗な女の子の知り合い、健太の記憶には存在しない。
「......あんた、誰だ?」
こんな時に、こんなセリフしか言えない自分が恨めしい。
しかし、友達と言えるクラスメイトすらいない健太にはこれが精一杯だった。
「は、はいっ、私、清華高校一年の星野夏奈です......って、そんな場合ではないです!先生に知らせないと!」
「先生......?ああ、俺は事故ったのか」
医者を呼びに行ったであろう少女の後ろ姿を見送りながら、健太は自分が撥ねられたことを思い出した。
「また神様は俺を助けたのか......」
体はボロボロなのに心臓は勢いよく動いているのがわかる。
この世に生きる意味なんてないのにも関わらず、だらだらと生き延びている自分は一体なんなのだろう。
だんだんと気分が悪くなってくる。呼吸も激しい。だが、自分が生きていることを実感させられる。
このまま死ねたらどんなに楽だろう。
そんなことを考えているうちに、二人分の足音が聞こえてきた。
「月見くん!大丈夫ですか!?どこか痛いところはありませんか!?」
部屋に入ってくるやいきなりものすごい形相で詰め寄ってくる星野。
先生もそれを見て苦笑いしてしまっている。
「全身が痛いよ......」
「えっ!?どうしましょう先生!月見君が死んじゃうっ!」
相当気が動転しているようだ。
「まあまあ、星野さん、落ち着いてください。月見さんの意識は戻ったのですから、もう大丈夫ですよ」
医者がどうにか少女をなだめる。
星野もそれを聞いて一応落ち着いたのか、近くの椅子に腰を下ろした。
それから医者は健太にいくつか質問し、検査をすると、二週間ほどで退院出来ると告げ、さっていった。
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