シモン

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シモン

ふと岸辺の向う側に目をやると…シモンがいた。 大きな魚をムシャムシャと旨そうに頬張っている。 シモンは不細工な顔をした小男だ。 マチルダと同じぐらいの背丈で子供にしか見えない。 そんな奴は生意気にも森で女子の尻を追いかけ廻していた。 なのに女子の多くが不思議なことにシモンに乗り逃げされて怒っているらしい。 でも私からすると、あんな弱々しくてダサい男にヤらせる女の気が知れないのだが… とにかくシモンの評判は随分と悪かった。 私はシモンのことが大嫌い。 奴は大柄の私を恐れていたに違いない。 シモンは私の姿を見たらコソコソと逃げ出していたからだ。 しかし今日のシモンは、いつもと違っている。 私が魚を獲る様子をジッと観ているのだ。 凄く気色が悪い。 奴は川岸に住んでいて魚を獲って暮らしている。 魚獲りが巧いのは当たり前。 もしかして私の下手な遣り方を観てバカにしてるのかも? 笑っているのか? 優越感にひたってる? 屈辱! 口惜しい。 私は下衆のシモンに弱みを見られて腹立たしい。 イライラはつのるばかり… 癪に障るので収穫は僅かだが諦めて岸から上がった。 もしその時、シモンが絡んで来たりしたら、私は激怒して奴を殺してたかもしれない。 だが殺気を感じたのかシモンは動かなかった。 私はシモンを横目で睨み付け威嚇してから、その場を去ろうとする。 背中に奴の視線を感じるが振り返らない。 こんな不快な気分になったのは、生まれて初めてだ。
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