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蒼白色に煌めく広々とした川底スレスレに沿って悠々と滑る黒い影。
視点を移すと影の主が気持ち良さげに伸びをしながら泳いでいる!
そいつこそ、私を幸福の絶頂から地獄に突き落とした張本人だった。
奴は遠巻きにグルリと私の周囲を回遊し始める。
まるで溺れていた私を嘲笑うように奴は泳ぐ。
水中を自由自在に潜ったり浮上しながらタップリと嫌味を振り撒いてる…
しなやかに川中を上下する奴の素肌が仄暗い月光に照され妖しく褐色に輝く。
私は奴に激しく憤りを感じた。
ほんの数分まで..奴こそが私の希望であり幸せの象徴的存在だったのだから。
しかし奴は幸福を騙った偽者でしかなかった。
奴は無知な私から総てを奪い取り得意げに泳いでる。
私の下半身は奴に無惨に破壊されていた。
血や体液が傷ついた股間から凄まじい勢いで水中へと排泄されている。
こんな状況になるまで奴の正体に気付かないでいたなんて…愚かすぎる私。
私の肉体は奴の食い物でしかなかったのだ。
『…悔しい…悔しい…』
あんなグロテスクで醜い奴に今まで尽くしていたなんて悔しすぎる。
川中を優雅に遊泳する奴は勝利者であり死を目前にして波に揉まれ浮かぶだけの私は敗者だ。
数分前まで誰よりも美しい容姿と才気と若く健康的な肉体に恵まれた私だったのに…
一瞬にして活力が失われ生気は枯渇し醜い容貌になってしまった。
悔しすぎる。
年頃で活発な女の子だった私が突然に老いさらばえ惨めな最期を迎えるのだから…
華やかで楽しかった様々な過去の記憶が思い出される。
過去を振り返れば私の環境は恵まれていて、とても幸せだった。
遠ざかり閉塞しつつある意識下、幸福だった過去の記憶を一途に辿る私だった。
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