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「ふっ、杏樹、顔上げろ。」
「っ、ん、無理です。」
泣いたせいで目が腫れてると思うから、そんな酷い顔を翔君に見られたくない。
「はあ、お前の顔が見てぇんだよ。分かんねぇのか?」
「っ、翔君――…、」
俯いたまま顔を上げない私を見て、大きな溜息をついた翔君は、私の頬に手を当てて無理矢理顔を上げさせた。
「ふっ、くだらねぇ事で泣くんじゃねぇよ。」
「っ、くだらない事じゃないです!!私には大切な事なんです!!」
私は真剣に悩んでいるのに酷いよ。
不安な気持ちを抱えている私の事なんて、翔君には分からないのかもしれない。
「俺にはくだらねぇ事だ。俺はお前以外の女に興味なんてねぇし、俺の視界にお前以外の女を入れるのも嫌だ。」
「っ、翔君――…、」
「ほら、俺の目を見ろ。何が映ってる?」
翔君の言葉を聞いた私は、涙で霞む視界で翔君の澄んだ瞳の中を覗き込んだ。
「っ、ん、泣いてる私が映ってます。酷い顔です。」
「ふっ、そうか。涙で潤んだ杏樹の目には、すげぇ幸せそうな俺が映ってる。」
「……翔君。」
私の瞳から零れ落ちる涙を指先で拭った翔君は、凄く幸せそうな表情で優しく微笑んだ。
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