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「ほら、杏樹。もう泣くな。」
「……っ、ん、はい。」
翔君は、中々泣き止まない私を抱き締めながら、私の涙が止まるまで背中を摩ってくれた。
「もう大丈夫か?」
「はい。翔君、ごめんなさい。」
「謝る前に俺の目を見ろ。どんな杏樹が映ってる?」
「……はい。」
翔君の瞳の中に映る私は、泣き腫らした目をしていて凄く酷い顔だけど、翔君に抱き締められて安心した事で、とても穏やかな表情をしている。
「どうだ?すげぇ心が落ち着いてるって顔してねぇか?」
「はい。凄く穏やかな表情をしています。」
「そうだろ?俺が泣いてる杏樹を抱き締めた後は、いつも今と同じ表情をしてる。」
「……え?」
「恥ずかしそうな顔、怒った顔、楽しそうな顔、泣きそうな顔、幸せそうな顔、俺はいつも色んな杏樹の表情を見てる。」
「私も翔君の色々な表情を見てます。優しく微笑んだ顔、照れた顔、意地悪な顔、切なそうな顔、幸せそうな顔、他にも沢山あります。」
「俺達は、毎日お互いの色んな表情を瞳の中に映して過ごしてる。そんな俺達の瞳の中に、他の女や男が映り込む隙間なんてある訳ないだろ?俺はこの先ずっと、自分の瞳の中に杏樹以外を映すつもりはない。」
「翔君――…、」
翔君の言葉を聞いた私の心の中は、嬉しさと溢れる程の幸せで満たされた。
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