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「……っ、杏樹――…、」
「は、はい!!」
考え事をしている最中、突然聞こえてきた声に驚き、慌てて返事をして翔君に視線を向けた。
「何処にも……行くな……、」
「……え?翔君?」
今のは寝言なの?
切ない声で私の名前を呼ぶなんて、どんな夢を見ているの?
夢の中だとしても、翔君が辛い思いをするのは嫌。
その原因が私にあるという事が凄く悲しい。
「翔君、起きて下さい!!私は此処に居ます。何処にも行きません。」
「……っ、ん、」
「翔君、お願い。起きて!!」
「……はあ。杏樹、おはよう。」
翔君は私の声に反応して瞼を開くと、私に視線を移して優しく微笑んでくれた。
「翔君、おはようございます。」
「杏樹、朝から泣きそうな顔してどうした?怖い夢でも見たのか?」
私、泣きそうな顔をしているの?
翔君に心配かけるつもりなんてなかったのに……。
何かあれば、すぐに泣いてしまう弱い自分が本当に嫌い。
「怖い夢は見てないです。心配かけてしまってごめんなさい。」
「そうか。何かあるなら俺に言えよ?いつでも抱き締めてやる。」
「っ、はい。」
これ以上、翔君に心配かけないように笑顔を向けると、両手を強く握り締めて涙を堪えた。
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