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「……あの…」
なんか言い淀んでる。
私は首を傾げて、続きを待ってみる。
その仲間たちは、こっちをまったく気にせずに楽しそうに話している。
どれだけ待ってみても続きはなくて、気のせいだったかと自転車を動かす。
さて走りだそうとして、何か後ろに重みを感じて振り返ると、あの悪ガキが自転車の荷台を掴んでいた。
その整った顔が私を何か真剣に見る。
…なんなんだ、こいつは。
おばさんの次は何を言いたい?
「…名前はっ?年はっ?どこ住んでんのっ?」
悪ガキはいきなりナンパみたいなことを言い出した。
……聞かなかったことにしよう。
こんな年下にからかわれたくもない。
私は答えずに自転車を走らせようとして。
悪ガキは重石のように自転車の荷台を離しやがらない。
「逃げんなっ!…俺、園田海陸。海と陸でカイリ。まわりには園田でダーって呼ばれてるけど、カイリって呼んで」
なんか自己紹介された。
アメリカンドック冷めるから早く帰りたい。
一服もしたい。
「カイリ」
呼んでみた。
悪ガキはうれしそうに口元を綻ばせる。
なんか犬みたい。
反応が単純。
「自転車離して。早く帰りたい」
「……名前っ。お姉さんの名前っ」
「お姉さん?昨日、おばさんって言ったよね?」
「…言ってない。それ俺じゃない」
さらっと嘘つきやがる。
「で?おばさんの名前聞いてどうするの?」
「お姉さん。…俺とつきあわない?」
絶句した。
……なんなんだろう?この悪ガキ。
なんか盛ってんのかな?
そんなかわいい顔してるんだし、学校じゃモテモテだろ。
なんで私にそんなの言うわけ?
なに?罠?
からかわれてる?
モテない女だと思って、からかわれてる?
…どうせモテないけど。
つきあったのなんて高校の頃の3ヶ月未満が3回だけだし。
告白なんかされたことないし。
私がつきあおうって言って、3回ともつきあってフラれたんだけど。
…モテそうな年下のガキにからかわれたくない。
「自転車離してくれたら」
言うと、悪ガキは簡単に自転車を離した。
私は自転車を走らせる。
「ちょっ、なぁっ!逃げんなっ!」
後ろから悪ガキのそんな大きな声が聞こえてくる。
無視。
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