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頭の中、またごちゃごちゃといろんなことを考えて。
バイトでミスって怒られたりして。
溜め息ばかりで、ふらふらで家に帰ると、カイリが当たり前のようにそこにいる。
「お帰り、翔ちゃん。今日はトンカツ。味噌汁の具はほうれん草だよ」
これは嫁かもしれない。
洗濯物も干されてる。
これは嫁だ。
出来のいい嫁だ。
更になんでそんなに身長高くて、整った顔していやがる。
こんなの私の彼氏なんかじゃない。
疲れてるだけ。
私は無言でカイリを部屋から追い出そうと玄関に押しやる。
「えっ?なにっ?俺、なんもしてないのに、まだ日付かわってないのに、帰れってっ?
やだやだやだっ!」
カイリは状況を判断して、片手に菜箸を持ったまま、私に抱きついてくる。
まだ押しやろうとしたら、ぎゅうって強くしがみついてくる。
どうして私はこいつと出会ってしまったのだろう?
「トンカツっ。食べたら翔ちゃんの機嫌もよくなるってっ。ほら、作るからビールでも飲んで待ってて。一服して休んで」
作れなんて言ってない。
ここにきてなんて言ってない。
だけど、癒されてる。
私は両腕をカイリの背中にまわして抱きついて、その胸に顔を埋める。
癒されてる。
悔しいくらい。
「ん、ぎゅう。…どしたの?翔ちゃん。大丈夫?」
カイリは私の頭を撫でて、胸に引き寄せてくれる。
「……しんどい」
「熱でもある?トンカツ食べられる?もっとあっさりしたもの作ったほうがいい?」
そういう意味ではないんだけど。
なんて言うのも面倒くさい。
ぎゅって抱きついているだけでいい。
もたれかかる腕があるだけでいい。
でも…。
「抱かれたい」
そんな言葉を口走ると、カイリはどこか挙動不審で。
「う、うん。…も、もちろん?いいよ。うん。でもご飯冷めるから、食べたあとにしよ?」
ガツガツしていそうなのに、ガツガツしていないそういうのにも、なんだか癒されてる。
おとなしくカイリを離して顔をあげてその顔を見ると、赤くなってる。
かわいい。
私は小さく笑って、カイリの頭を引き寄せて唇にキスをする。
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