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「…会いにこなかったくせに」
調子にのって少し拗ねた態度見せてしまった。
「うん。俺の誕生日とかね。がんばったけどレコーディング押しまくって無理だった。でも…すげぇうれしい一言が俺の携帯に届いたの。おめでとうって。たったそれだけなんだけど、俺、それだけでいいんだよ」
それはもしかしなくても私が送ったもの。
プレゼントもあげていない。
あげられなかった。
だけどカイリの耳には今も黒いダイヤのピアス。
その指には黒ずんだ銀の指輪。
腕にはわっか。
私がカイリにあげたもの。
捨てない。
使ってくれている。
きっと私はそれだけでうれしくて、それだけでカイリの気持ちがわかっている。
私の心にぴったりはまるカケラ。
「もう学校もないし、ファーストアルバムも完成したし。インストとか音楽活動はあるから高校の頃みたいにはいかないけど」
カイリはそこで言葉を区切って顔を上げて私を見る。
「俺と結婚してください」
カイリはまっすぐにはっきりと言って、ポケットから指輪のケースを取り出した。
ケースの中から指輪をとって、私の左手の薬指にはめる。
プラチナのきらきらした指輪。
赤い石がついている。
私の誕生石のルビー。
私がすぐに冗談にしてしまうから、隙を与えてもらえなかったようにも思う。
カイリの手は私の左手を包むように握って。
私は何を答えればいいのかわからなくて、その手をただ見ていた。
行き遅れちゃうとか、カイリとつきあったりなんかしたから、結婚なんてもうできないとか。
なんかそんなことを考えていたこともある。
最初の頃なんて、カイリのことなにも知らなくて。
貢がせたいのかって思っていたのに、貢がれて尽くされているのは私ばかり。
カイリはじーっと私を見ていて、私がカイリの顔を見ると、私の頭にふれて頷かせる。
「翔ちゃんはこれだけでいいの。はい、やって」
きっと返事のこと。
4つも年下のくせにその言い方は生意気だ。
なんて思いながらも、頷いてあげる私がいる。
そんな生意気な年下の男に私は負けている。
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