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私は智と哲也の背中を押して、連れていこうとしてみる。
智も哲也も空気を読んでくれたように何も言わずに、一緒にいってくれようとして。
私は後ろから引っ張られて、カイリの腕の中。
ゲリラライブ、めちゃくちゃ。
カイリの夢はスターになることじゃない。
「翔ちゃんの友達の兄さん方、翔ちゃんは俺の嫁なので遊びにつきあわせないでください」
カイリは私の左手と自分の手を重ねて智たちに見せて。
そこには銀色のシンプルな揃いの指輪。
結婚指輪。
…空気を読みやがれ、カイリ。
私は無言でカイリのお腹に肘を入れた。
「ぐはっ!い、いてぇよ、翔ちゃんっ」
カイリは私を離して痛がる。
「智、哲也、いくよ」
私はカイリを振り返ることなく言って、二人を連れ去るようにその場から走って逃げる。
智も哲也も一緒に逃げてくれた。
たぶん理解はしていない。
ここまでくれば大丈夫だろうというところまで走って、息切れする体を休ませる。
「……キノ、おまえさ…」
智が何かを言おうとしたとき、また私は背後から抱きつかれて、押し潰されるようにのし掛かられた。
「翔ちゃんの馬鹿っ。逃げんなっ。……翔ちゃーんっ」
カイリはすりすりと私に擦り寄る。
私は押し潰されて、もう逃げ出す気力もなく。
言葉を出す気力もない。
ただ、覚えていろよ、この馬鹿とは思ってあげる。
「…キラキライケメンくん、ゲリラライブ、どうすんだよ?路上使用許可までとってあるんだろ?カメラも入っていただろ?」
哲也が呆れたようにカイリに声をかける。
「そんなもん、俺、どうでもいいし。どっちかっていうと、音楽やるならスタジオプレーヤーになりたいくらいだし。事務所が俺を露出させようと企画するだけだし。…俺の翔ちゃんに手を出さないでください」
カイリは強く哲也を見て、自分のやってる仕事の責任感もなく言ってくれる。
まだまだ子供だとカイリを見て思う。
呆れて言葉も出ない。
智も哲也も何も言えないらしい。
こういうとき、なんで私はこんなまちがいを犯してしまったのだろうと思う。
ここにそれなりのイケメンがいるのに。
それでも嫌いにはなれないから、愛っていうのは厄介だ。
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