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姫「柔らかな日射しを感じる、今日4月3日…」
壇上で俺の可愛い妹姫月が、新入生代表挨拶を読み上げている。
高校からの編入組はその容姿にどこかざわついている。
美「校長先生、来賓の皆様、…」
けれどそれは中学からの持ち上がりも同じで、綾吊さんに見蕩れていた。
2人の美少女の挨拶を、静かに、けれどざわついた心で、その場にいた全員が聞き惚れていた。
姫「新入生代表、紅姫月。」
美「綾吊美月。」
一礼をして振り返る2人。
…目が合う。
そして彼女――綾吊美月は妖しく艶めかしく微笑んだ。
ぎゅぅっと心臓を鷲掴みにされるような感覚。
苦しい。
気持ち悪い。
胃の中身がこみ上げてくるのを感じて、俺はたまらず、静かに席を離れ、トイレへと駆け込んだ。
目が合った瞬間を忘れられない。
あの時の彼女は誰が見ても綺麗だった。
なのに、あの瞬間は俺が生きてきた中で最悪の瞬間だった。
満「なんなんだ…。」
あの子は危ない。
俺の中の何かがそう告げている。
出来る限り近付かないようにしよう。
幸い、クラス分けは成績ごと。
俺と彼女が同じになることはない。
あぁ、でも、姫月と咲月とはきっと同じなのだろう。
と、そこで思い出す。
綾吊さんに対して姫月があまり良い表情をしていなかったことを。
もしかして姫月もこの感覚を味わっていたのだろうか?
おかしな感じだ。
誰が見たって綺麗な少女に、こんな気分の悪さを抱くなんて。
満「まあ、人間、相性ってものもあるしな。」
自分に言い聞かせるように呟いて妙に納得した。
多分俺とあの子は相性が良くないのだ。
そして姫月とあの子も。
それならどうしようもない。
合わないものを無理に合わせようとするとどうしても不具合が生じる。
その結果がこの気分の悪さなのだろう。
そう納得していると、トイレの外が些か騒がしくなってきた。
多分入学式が終わったんだろう。
満「教室に行けばいいかな?」
そう呟き、俺はざわつく人の流れに紛れた。
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