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姫「お兄様……、ね。」
静かな呟きにどんな感情が込められてるのかは、俺には分からない。
けれど苦々しげなその表情から、あまり良い感情ではないのは確かだろう。
美「…やぁねぇ、そんなことまで知っているのね。」
姫「別に何の不思議もないでしょうに。何を今更。」
美「この子が今まで生きてきた道のりも、決して良いものとは言えなかったけれど、貴女の方がもっとずっと辛くて苦しそうねぇ…?」
クスクスと嫌な感じの笑い声を隠そうともせず漏らす。
姫月が生きてきた道のりが辛くて苦しい…?
その言葉に眉を潜めざるを得なかった。
綾吊さんが姫月の何を知っているというのか。
産まれてからずっと一緒に同じ道のりを生きてきた俺が知らないことを、彼女が知っている筈がない。
姫月は幸せに生きてきた筈だ。
両親は健在でそれなりの稼ぎがある。
馬鹿で甘い兄や格好いい兄もいる。
その家族とずっと一緒に暮らしてきた。
特に大きな病気があったわけでもなく健康に。
頭は良いし、凄く可愛い。
友達だって多い。
付き合ったことはないようだけれど告白をされたことは数え切れない。
そんな生活を幸せと形容することはあれど、辛くて苦しいと表現することは有り得ないだろう。
姫「真っ当に生きれる筈がないのだから、それが当然。
何を甘えたことを言っているの?
私達はそういうものでしょう。」
姫月は、否定しなかった。
それどころか肯定の意とも取れるような言葉を紡いだ。
辛くて苦しい人生を認めた上で、それを仕方ないものだと受け入れていた。
こんな姫月は、知らない。
ここにいるのは、本当に自分が知っている姫月なのだろうか。
美「…貴女らしい言葉で耳が痛いわ。」
姫「もう1つ、言いたいことあるんでしょう?
無駄口叩いてないで早く用件を済ませてくれる?」
美「そうね、私もそろそろ、限界だわ。
2つ目、これは、"私"から"貴女"へ伝えたい言葉。
会いたかったわ、姫月。」
姫「そうね、私も会いたかったわ、美月。」
姫月のその言葉を聞いて、ふっと微笑んだかと思うと、綾吊美月はその場に倒れた。
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