天才

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私は天才相場師と呼ばれている。株、債券、為替、何にでも精通し、その波を読むことができた。もちろん、優秀な相場師というのは数多い。おっと、最近はディーラーなどと呼ぶらしいが… その優秀なディーラーとやらも私程ではない。と言うか正直、遠く及ばない。 まったく根本が違うからだ。 歴史上、天才と呼ばれる人々がいる。しかし、私に言わせれば、私の知り得る限り、真の天才と呼べる人は音楽家のモーツァルトか数学者のラマヌジャンくらいのものだろう。 アインシュタインは天才と呼ばれるが、学問の流れからいって、相対性理論は発見されるべくして発見されたものだ。アインシュタインがいなくても誰かが発見したことだろう。 ところが、モーツァルトやラマヌジャンはどうだ。バックグラウンドもまったく何もないところから一瞬で音楽や数学の定理を思いつく。無から有を創り出すのが天才の仕事だ。 そう、つまり私の相場の読みは計算ではない。一瞬で分かるという類いのものだ。いや、それなりに計算をしているが、それを論理だてて人に説明することはできない。頭の中でカチリと音を立てて噛み合う瞬間がある。かの天才達もそうであったろう。 それはともかく、私の読みは百発百中だ。ありとあらゆる企業の資金担当者が私の元に日参してきた。電話も引っ切り無しにかかってくる。休む間がまったくない。いつからこうなったのか。秘書の佳菜子が「失礼します。」とドアをノックした。佳菜子はグラマラスな美人だ。手に大量の資料と依頼のFAXを携えている。 「おいおい。またか。そんなに!」 「お仕事ですよ。今が大事な時期。これが終われば楽しい休暇が待ってますよ。」佳菜子がニコニコ顏でお茶をデスクに置いた。 「君、休暇は一緒にどこかの南の島にでも行かないか?」私はヤケクソで提案してみた。 「うーん。そうですね。お仕事頑張ってくれたら、一緒に行ってもいいわ。」 マジか?俄然やる気がでてきた。おーし。頑張るぞ! 「アドレナリンの投与終わりました。博士。」 「うむ。ちょっと活性化してきたぞ。頑張って稼いでもらわねば…天才の頭脳は貴重だからね。大事に扱えよ。」 「しかし。気の毒なもんですね。そう言えばアインシュタインの脳も保存されてるんでしたよね?」 「ああ。あっちはホルマリン漬けだがな…」
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