秘伝の味

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《秘伝の味》 「頼む。早坂君、頼む!」 「いや、申し訳ありません。どうしてもうまくいかなくて…。あの、店長、なんとかならないでしょうか?」 「いや、私ではダメらしいんだ。もう、試したんだ。めちゃくちゃ怒られてな。」 「とにかく、今日は難しいです。てか、無理かと…」 時計の針が1時を差しています。 真っ白いテーブルに頬杖をつき、食通の田崎老人がさっきからしびれを切らしながら待っています。 「あー。ちょっと君。店長を呼んできてくれんかね?」 「は~い。」バイトのサッちゃんが厨房に引っ込み、店長に声をかけます。 「店長~。田崎さんがお呼びですよ。」 「うん。わかってる。困ったなあ。」 「一体、何事ですか?もう、1時間もお待たせしてるんですよ。お料理、まだできないんですか?」 「いや。早坂君が…どうにもならなくて。」 「だって、注文はカレーライスですよ。さっさと盛り付けて出しましょうよ。」 「いや、違う。特別なカレーライスなんだ。普通のもんじゃない。特別な食材が必要なんだ。」 「ああ。なるほど。その食材がないんですね?じゃあ、そう言って…」 「いや。そうしたいのは山々なんだが、3日も前から予約してくれてるもんでな。早坂君も大丈夫ですよ。って太鼓判を押すから…」 店長は恨みがましい目で早坂さんをチラッと見ます。 面目なさげな早坂さん。 「一体、どういうことですか?」サッちゃんは首を傾げます。 「うん。あ!待てよ。サッちゃんならもしかして上手くいくかも知れない。いや、実はな。あの田崎老人、昔、このレストランの悪口をある雑誌に書いたことがあってな。売り上げガタ落ちになったんだ。」 「え!そうなんですか?じゃあ、なんであんなに足繁くこのレストランに通っているのかしら?」サッちゃんが不思議そうにつぶやきます。 「そうなんだ。じゃあ、来なきゃいいものを冷やかしで来店したもんだから、こっちも頭きてな。カレーライスに入れてやったんだよ。」 「え?何を?」 「特別な食材さ。そしたら大絶賛でな。あちこちの雑誌に書き立てるもんだからこっちは大迷惑なのさ。注文が相次いでな。肝心の早坂くんは便秘だし…」 「だから、サッちゃん頼む!」
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