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夕暮れの道沿いに、ぽつりとその駄菓子屋はあった。
周りの近代的な景観を丸っと無視して昭和時代の風貌を醸し出すその木造建築は、誰一人として招き入れることもなく、またその予定もなく、ひっそりと道端に佇んでいた。
どこからか飛んできたであろうアサガオは自由に蔦を壁に絡ませ、申し訳程度に置かれた自販機は、聞いたこともない名前の安っぽいサイダーを並べていた。
完全に時代錯誤のそんな駄菓子屋には、当然の如く子供たちは寄り付かない。
しかし、駄菓子屋の持ち主である夫婦は、そんな事は気にもしなかった。
否。
気にする必要がないのだ。
この駄菓子屋に、人が来るはずはないのだから。
そして、そんな事のためにこの駄菓子屋を開けている訳ではなかったから。
「……『世界』が、割れたぞ」
くたびれたTシャツにオレンジ色の腹巻をした初老の男は、新聞に目を通しながら言った。
実はもう、この日付の新聞を読むのは何度目かになる。
正直言って読んでない箇所がない。
次のページに書かれていることは既に頭にあったが、男性は惰性で新聞を繰った。
「おや、いよいよ始まるんかい」
奥から大量の洗濯物を抱えて出てきた女性が、男性の声に応じた。
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