第七章

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「『祝日戦争』が、始まるんや」 そうして女性……おばちゃんは、端の黄ばんだガラス窓から、赤い空を見上げた。 洗濯物を抱えたまま数秒、その後に思い出したようにまた歩いて奥の方へ消えた。 大きな森のような天然パーマに向かって、男性……おじちゃんが声を張る。 「おいおい、戦争が始まるってのに。もう少しマシな『りあくしょん』はないもんかね、ウチのババアは」 『りあくしょん』に対し、『ババア』はあまりにも言い慣れている感じがあった。 洗濯物との格闘に向かった天然パーマは、声だけで返す。 「やかましいよクソジジイ!こちとら、こうして洗濯物を畳みながらも夕飯の献立を考える荒業を発揮してんだい!気安く話しかけてんじゃないよ!」 とても夫婦とは思えぬ荒っぽい会話だが、一応これが彼らの『主流』らしい。 おばちゃんはババア呼ばわりされたことについては、特に言及するつもりはないようだ。 言及することはなくとも、『クソ』のおまけつきで返したその言葉は、もう習慣になってしまっていた。今更意識することもない。 そう言えば結婚当初はもう少しロマンチックな呼び方で双方呼んでいた気がするのだが。 思い出すのも恥ずかしいし、思い出したところでどうしようもないため、おばちゃんは左手の薬指をしばし眺めるだけで終わった。
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