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「忙しくなるねぇ、これから」
「へっ、何を言っとるか。お役御免の間違いじゃろう」
おじちゃんは、腹巻の中をボリボリとまさぐりながら、大きな欠伸をした。
そのまま畳に横になろうとする頭を、おばちゃんの脛が止める。
「アンタ、まさかあの子を送り出しただけでお役御免とか言ってんじゃないかい?!『傍観』すんのはこれからなんだよ!!」
「それじゃ!その『傍観』は面倒くさいから全部お前に任せる!!俺はもう降りた!!」
「馬鹿なこと言ってんじゃないよ!!アンタだって能力者の端くれじゃないかい!!」
「お?何か!やるんか!」
「そっちこそ何を!!」
パリンッ!!
すわ取っ組み合い、というところで、何かが割れる音がした。
「今のは……」
「もう一方の……さね。恐らくは、『AWAY』の」
おばちゃんは『AWAY』と、そう言い慣れた口調で呟いた。
今の発言に始まったことではない。
二人が祝日戦争の重要な関係者であることは、もはや言うまでもないことである。
「全く、毎回毎回こうなるんじゃからのぉ。ま、もう少し様子を見てやるとするかな」
「ふん、当り前さね」
少しくたびれた夫婦は、赤く染まった西の空に目を向けた。
誰一人住んでいない近代的なビルの隙間から、ガラスのようにひび割れてしまった空が、おぼろげに見えた。
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