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「……よし、と。できましたよ~♪」
スリングに乗せた陽菜に笑顔を振りまきつつ、メインディッシュのスクランブルエッグを手早く皿によそい、ダイニングテーブルにことん、と置いた。
「はいはい、陽菜はここですよー。」
同じくダイニングに高さを合わせたベビーチェアへと陽菜を下ろす。
時計を覗きみると午前七時半を回っていた。うん、そろそろ来るかな。
「おはよう、ママ。昨晩の陽菜はいつにも増してパワフルだったなー」
案の定、すぐに支度をし終えた侑哉がダイニングへと顔を現した。
束感を出したマッシュに仕立てた髪がふわりと揺れ、パリッと糊が効いた青ボーダーの半袖ワイシャツと落ち着いた色のスラックスがデキる男をしっかりと演出している。惚れ惚れするくらい男前だなぁ。
「…………あれ、ママ、どうした?」
「あっ、あ、あああ、ごめんパパ。うん、陽菜にかかわらず、赤ちゃんは理由なく夜泣きする時期があるんだって」
どうした、って言われても、見とれてたなんて言えないじゃない。
「あー、それじゃ仕方ないな。ママも無理しないように陽菜が昼寝してる時にでも適度に休めよ」
「あ、うん、ありがと」
侑哉は私を『ママ』と呼ぶ。
これは陽菜が産まれてから変わったことで、それからずっと私は『ママ』と呼ばれている。そうなると必然的に私も、侑哉のことを『パパ』と呼ぶようになったわけで。
言葉をたくさん覚える時期の陽菜に、『パパ』『ママ』という言葉を覚えてほしい――そう思って、二人で始めた習慣だから。
けれどその習慣を、たまに淋しく思うのは何故だろう。
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