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「ごちそうさまでした」
陽菜に教えるようにジェスチャー混じりにそう言った侑哉は、テーブルを揺らさないようにゆっくりと椅子を引いて席を立つと、重ねた食器を流しへと運んだ。
それくらい私がやるのに、と言っても侑哉は出来ることは協力したいんだ、って言ってくれる。
私は本当に果報者だなぁ、ってつくづくそう思う。
侑哉がダイニングから出ていく。
そうして私は陽菜を抱き上げて玄関へと見送りに向かう。
これもいつもの日課。
ノートパソコンを収納した薄型のビジネスバックを傍らに扉の前に立った侑哉は、見送り側の私達へと振り返った。
「今夜は予定通り出掛けるからな。
楽しむためにも、しっかり準備しておくんだぞ」
「うん、わかってる。楽しみにしてるから……侑哉」
私はそっと瞳を閉じて尖らせた唇を侑哉の方へと向けた。
いつもはしない――そんな今日のとびきりの勇気は、
「…………行ってくる」
くしゃくしゃ、と頭を撫で回されて強制終了。
残されたのは、パタン、と閉まるドアの音。
「…………行ってらっしゃい」
触れられた前髪が熱を帯びるも、どこか不完全燃焼の気持ちが芽生えてくる。
…………侑哉のバカ……。
私はしばらくその場から動くことができなかった。
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