17人が本棚に入れています
本棚に追加
あぁっ、もうっ。
こんな忙しい時に……!
頭はボサボサのまま、顔はもちろん素っぴんだし、服は部屋着のまま――こんな状態で来客!?
新聞の勧誘だったら「忙しい」で追い払ってしまおうか――そう思いながら、やや乱暴気味に扉を開いて。
「え、――えぇっ!? お、お母さん!?」
思わず眼を丸くした。
そこにいたのは実母――隣県に独り暮らししているはずなのに、何故?
顔にはてなマークを浮かばせていたからだろう、お母さんはうふふ、と楽しそうに笑った。
「あらら、侑哉さんの言った通りね~、お母さん来てよかったわ~♪」
そう言いながら、母は慣れた手付きで私の腕から陽菜を受け取り、壊れ物を扱うようにしてそっと抱き上げた。
「陽菜、ばーばですよ~、久しぶりね~」
「な、何しに……っていうか、お母さん、侑哉が言ってた、って何なの?」
満面の笑みとかん高い声色が一転、一気に落ちたトーンとテンションを私に向けてきた。
「……侑哉さんから電話があったのよ。
あんた陽菜のことや家事はお母さんに任せていいから、 早く支度しなさい!」
侑哉……お母さんに電話して、陽菜の面倒をお願いしてくれてたんだ……!
それだけで、胸がいっぱいで。
「ありがとう……お母さん…!」
「あらあら、お礼なら侑哉さんに言いなさい。
―――結婚記念日、おめでとう」
「行ってきますっ!」
見送りしてくれるお母さんと久しぶりに『ばーば』と逢えた嬉しさで機嫌がいい陽菜に見送られて、私は駅まで急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!