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手ぐしでざっとまとめたお団子ヘアを淡いピンクのシフォンレースを重ねたシュシュが彩る。
首元には長い眠りから覚めたばかりのティファニーのオープンハートネックレス。
(抱っこの時に陽菜に引きちぎられそうになったのでしまっていた)
バックスタイルに大きなリボンが付いた淡い花柄のシフォンプリーツワンピース、その上に羽織ったふわふわファーのボレロは、妊娠中に雑誌を見て惚れ込んで買ったもの。
普段絶対に履けないピンヒールは、花のコサージュがついたスエードタッチのボルドーカラー。
化粧だって頑張った。
普段、下地とファンデくらいしかしない肌にグラデーションのアイシャドウとスッと引かれたアイラインが伸びる。頬にいれるチークはちょっと控え目にしたけど。
リップカラーだけはこだわって、この前出たばかりの新色ジュエリーピンク。
私、綺麗になったかな?
侑哉は綺麗って言ってくれるかな?
待ち合わせ場所に向かう――まるでそれ、デートみたいだよね。
侑哉はデートの時、必ず十五分前には着いて待っていてくれた。
なんで知ってるかって、私はもっと早くに来て、待っていてくれる侑哉の姿を見ていたから。
時計とにらめっこしながらそわそわして待っている侑哉の顔が、私が到着した時に極上の笑みに変わる――それが嬉しくて。
待ち合わせの駅構内は帰宅ラッシュのために普段よりずっと混んでいた。
普段、陽菜と出掛ける時は、混み合う時間をずらして利用しているからか、流れる人の波に思わず身体をよろけさせてしまう。
「あっ……」
不意に割り込んできたおじさんに気を取られ、私の身体はぐらりと後方に傾く。持ち直そうとして出した片足は慣れないピンヒールだったからか、ぐきり、と地滑りしてしまった。
――このままじゃ、転んじゃう!
私は思わず眼をぎゅっと閉じた。
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