序章

3/6
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
娘が転移してきた場所は、喧騒の中心。 ...のように騒がしいギルド本部の建物である。 その中に娘は扉を押し開けて躊躇うことなく足を踏み入れる。 途端にギルド内はあれほど五月蝿かった話し声が止み、静まりかえる。 人々の視線は揃って娘に向いている。 聞こえる音は娘がたてるコツコツという軽い足音のみ。 娘の姿を追って人々の視線も進んでいき、やがてある新任の受付嬢の前で止まる。 「えっ、えっ? あっ、あの、ご用件は?」 少し青ざめた受付嬢はかなりテンパってしまっているようだ。 「依頼完遂の報告に来ました。」 娘は努めて穏やかな声をかける。 「あ、はい。えっと?」 しかし受付嬢の頭が空回りしているのは明らかである。自然と同情、応援の視線が集まる。 「大丈夫ですか?」 「は、はい! 失礼いたしました。依頼完遂の報告ですね。」 「はい、そうです。」 娘のほっとしたような声音に人々は様々なことを思うが、その方向性は同じようだ。 会話に加わっているわけでもない人々が静かに息を吐き出す。 「ギルドカードの提示をお願いします。 はい、あ、あいっ、藍夏様。依頼完遂を確認しました。 報酬金はお渡ししましょうか、預金いたしましょうか?」 「預金します。」 「了解いたしました。 依頼完遂ありがとうございました。」 「はい。」 やり取りはそこで終わりのようで、娘は受付の横を抜けて奥の階段を上っていった。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!