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ギルドの受付をあとにした娘、総帝様はといえば。
ギルドマスター室とかかれたプレートを掛けられた扉をノックしていた。
待ち構えていたかのように返事はすぐさま返ってくる。
「失礼します。」
中で座り心地のよさそうな椅子に座ってペンを持つのは三十代ほどの細身の男性。
なかなか顔は整っている。
「やあ、よく来たね。
アイィィーー!!」
突然男性、ギルドマスターはだらしなく顔を弛ませ、総帝様に勢いよく両手を広げる。
「はい、今日はカップケーキを持ってきました。」
総帝様は盛大に広げられたギルドマスターの手に小さな袋をチョコンと置いた。
しかし、総帝様からの頂き物だというのにギルドマスターは不満げである。
「ついこの間まで、喜んで飛び込んできてくれたのになあ。」
「まったく、ですからそれは何年も前の話で──」
「ねえ、その口調はやっぱりやめられないの?」
話を遮られた総帝様はかすかに目を細めて返す。ローブで見えることはないが。
「突然どうしたのです? それこそ何年も前から言っていますでしょう?
もうこれは、癖なのです。」
「でもさあ、同年代の中でずっと敬語なんてちょっと近寄りがたかったりするんじゃない?」
今度は総帝様の眉が片方上がる。やはりローブで見えないが。
「同年代? 一体何の話ですか?
私と同年代の子供が接する機会なんて無いに等しい、違いますか?」
総帝様は何か嫌な予感がするようだった。
「違わないよ、これまではね。
でも、これから増えてくるんだよ?」
「...何故ですか?」
「あれ? もう分かってるんじゃない?
アイには学園に通ってもらわないといけないんだ。」
「...すいません、今何と?」
「アイには学園に通ってもらわないといけないんだ。」
「聞いていませんよ! そんな話!」
「今初めて言ったからね。」
総帝様はこのやり取りで若干疲れてしまったようだ。
俯いて小さく溜め息をついている。
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