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「ちょっと待て小娘コラ!」
「桜じゃ!」
「どうでもいいっての!てか何で俺が!」
「桜の晴れ着を濡らしおったじゃろうが!こんな格好では母上に叱られてしまうのじゃ!」
「知るかってのボケ!お前がんな所で寝てっからだろうが!」
「桜じゃ!」
「だからどうでもいいんだよンな事は!」
叫びながら咲良に掴み掛かる桜。
本人が『母上に叱られる』と言っている事を考えると、どうやら家出の類いではない。
………と、それよりも気になるのは桜の時代錯誤な物言いだ。
服装もさることながら、その言葉遣いはまるで典型的な時代劇のわがままお姫様だ。
まあ、きっと歴史好きな女の子………所謂【歴女】なのだろうと無理矢理納得し、掴み掛かっている桜を引き離そうとチラリと顔を見る。
改めて、意識して見ると相当にレベルが高い顔立ちをしている。
目がクリクリと大きく丸く、母親に怒られるのがそんなに怖いのか、目にうっすらと涙が浮かんでいる。
………が、咲良にはそんな事はどうでもいい。
今はもうさっさと帰りたいとの気持ちが何よりも大きい。
「だから離せっての!」
「___痛っ……!」
そしてやってしまった。
勢いよく突き飛ばした際、恐らくは足首を捻ったのだろう。
桜は小さく悲鳴を上げ、足を押さえると黙り込んでしまった。
そうなってしまえば話は変わる。
咲良という男は非常に薄情だが、悪人ではない。
それも己のせいで少女に怪我をさせてしまったとなれば尚更だ。
「………と、悪い。大丈夫か?」
「…………。」
「おい、聞こえてるか?大丈夫か?」
「…………。」
「おい!おま______お前……泣いてんのか?」
咲良が心配して少女の顔を覗き込むと、そこには両目から大粒の涙が頬から顎へと伝い、そのまま桜の柄が刺繍されている着物へと落ち、染み込んでいった。
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