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「何故じゃ………何故桜は此処におる……」
ボロボロと大粒の涙を流しながら桜は何かを呟いている。
咲良にはそれが何の事かさっぱりわからない。
ただ泣き、嗚咽する少女に掛ける言葉を咲良は持っていない。
ただ………何故か昔飼っていた犬を思い出し、水でビタビタに濡れている少女の艶のある黒髪をそっと撫でる。
すると……少し意外だったのか、怖かったのかはわからないが、桜が身体を僅かにビクッと震わせ、恐る恐ると言った様子で咲良を見つめる。
「………落ち着いたか?」
「…………。」
「まあ………何を思って泣いたかはんからんが、突き飛ばして悪かった。詫びにお前の家を探して送ってやるから住所を言え」
「…………。」
「………おーい?」
「………もう……いいのじゃ……」
全くもって咲良には意味がわからない。
血のベッタリ付いた着物を着て桜の木の根本で寝ていたり、家がわからずに送れと言ったり、終いには急に泣いた後に「もういい」等とのたまう始末。
本当ならもうこの時点でほかって帰るのだが、やはり怪我をさせてしまったと言う罪悪感があるのだろう。
捨て置けない。
「ボケが。もういいんなら端から送れとか言うんじゃねえ」
故にそう言いながら桜は着物の少女の背中と膝の裏に腕を回して抱き上げる。
着物が水分を含んでいるせいか、それとなく重い。
「な……何をするのじゃ……?」
「悪いが関わった事はキッチリしないと気が済まない性格なんでな。ほら、家は何処だ?住所を言え」
それは咲良にとっては精一杯の優しさ。
しかし、桜は家の事を聞かれるとまた黙り込んでしまう。
そうなれば気の長い方ではない咲良は次第にコメカミをピクピクと痙攣させ始める。
そして、遂に咲良の怒りが臨海点に達し、腕に抱えている少女を投げ捨ててしまおうかと思った矢先______
「なんで………桜は生きておるのじゃ………」
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