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己を抱き上げる男の突然の申し出。
桜はその突然の言葉に思わず顔を上げ、よくわからぬ声をあげる。
それもそうだろう。
見ず知らずの男が家に来いと言い、そのままなし崩し的に連れて行かれようとようとしているのだから。
………と、なれば当然抵抗する。
今、己を抱き上げている男は突然水をぶっかけてくる悪鬼羅刹。
下手に信用すれば何をされるかわからないと桜は手足をパタパタと動かし始める。
「は、離せ!桜を離すのじゃ!この人さらいめ!」
「人聞きの悪い事を言うなボケガキ!そんなに言うなら此処に置いてくぞ!」
「………それも困るのじゃ」
こんな夜分に人気のない神社……恐いのだろうか、桜は辺りを見渡すと咲良の服をギュッと掴む。
さらに言えば足を怪我して動けない上に服が濡れていかなり寒い。
「なら大人しくしてろ。怪我さしたのも濡らしたのも俺だからな。手当てと服くらいは貸してやるよ」
「……変な事をするでないぞ?」
「ガキに興味はない」
「………頼むのじゃ」
流石に女としてのプライドがあるのか、興味がないと言われて少々複雑そうに声のトーンを下げる桜。
安心___とまではいかなくても、それでも今はこの男を頼らざるをえない。
それに……桜自身気が付いているのかはわからないが、先程までは咲良に突き飛ばされた際に何か嫌な事でも思い出したのか、気が狂ったかのように泣いていたのに、今は不思議と微笑んでいる。
「……のう、お主」
「咲良だ」
「………咲良よ。お主のこの衣装………南蛮の物か?動きやすそうじゃのう」
「………ウニクロで上下のセットで三千円だ」
「うにくろ?」
「………もう黙ってろ。もうすぐ十一時になる。早く帰るぞ」
「じゅーいちじ?」
そうして咲良は腕に桜と言う名の少女を抱き、それとなく眠いのか欠伸をしてから颯爽と神社の石段を降りて行った。
(家に連れて帰った後をどうするか……取り敢えずは時間が時間だ。
今日は家に泊めてやって、明日からの事は………また明日考えよう)
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