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春岡家は富豪で、この地域ではそれなりの力を有してはいるが、武家ではない。
当然の如く、私兵等も持ってはいない。
故にならず者共を撃退する事などは不可能。
そして、先ずは春岡家党首の春岡喜一郎が首を跳ねられた。
次に、一人で屋敷から逃げ出そうとした喜一郎の弟、小吉朗が胸を凶刃に貫かれて絶命した。
残されたのは喜一郎の妻のお菊と長男の慶一朗、長女の桜の三人だった。
三人は屋敷の奥、頑強な扉によって護られた商売用の塩等が貯蔵されている倉庫へと逃げ込んだ。
そうして何とか一命を取り止めた三人だが、それも時間の問題。
この倉庫には屋敷の外へと脱出する通路や扉は入ってきた一つしかない。
外ではならず者共が開けろと叫びながら激しく扉を叩いている。
………破られるのは目に見えている。
戦っても勝ち目はない。
唯一の男である慶一郎も身体が弱く、武芸の類いは一切やっていない。
………死は目前に迫っていた。
そして、菊は決断する。
人の手に掛かって死ぬくらいならば、此処で自分達で果てようと。
もちろん慶一郎は反対した。
男なれば戦って死にたいと。
しかし、それはすぐに却下される。
大事な息子が殺される姿は見たくないと。
大事な息子、慶一郎。
大事な娘、桜。
腹を痛めて産んだ子が殺される姿を見たくないと。
………やがて、ならず者達によって扉は破られた。
そこにあったのは首を裂かれて絶命する二人の子供と、それを守るようにして抱き締めながら舌を噛み、息を引き取った母の姿だった。
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