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それから、夕食のお礼も兼ねてという事で咲良は結局閉店の十時まで店に残った。
これはいつもの事で、特に珍しい事ではない。
その際に美月が「やっぱり私の身体が欲しくなっちゃったのね。待ってて、シャワーを浴びてくるから」と言って咲良に脳天に手刀をもらうのもいつもの事だ。
そうして店を出た咲良はふと空を見る。
今日は珍しいくらいに晴れている。
いつもは霞んでいて見えないのに、今日に限っては星の瞬きが眩しいくらいに夜道を照らしている。
家までは凡そ百メートル。
胸ポケットからタバコを取り出し、徐に火を着けて彼は歩き出した。
百メートルと言う事は、どんなにゆっくり歩いても二、三分もあれば家に着く。
しかし、この日はいつもとは違った。
道中、調度家と店の中間地点に神社がある。
何を思ったのか、彼は足を止めて神社の鳥居の向こう側をジッと見つめていた。
無神論者である彼には神社など全く興味のない場所である。
子供の頃に何度か昆虫採集に来た事がある程度だ。
そうしてくわえていたタバコの灰がポトリと地面に落ち、彼は家に帰ろうと神社を後にしようとする。
その時だった。
ズドォォオオンッ!………と、轟音が鳴り響き、神社の敷地内に閃光が走る。
(雷……?こんな晴れの日にか?)
あまりの轟音に両手で耳を塞ぎ、しかめっ面をしながら夜空を見上げる。
気持ちが悪いくらいに雲一つない快晴だ。
雷が落ちるような天気ではない。
………が、見間違いではない。
あれは間違いなく雷だ。
そうなれば【見たものしか信じない】彼はその眼で確かめようと神社の石段を上り始めた。
後日、彼は語る。
真っ直ぐ帰っとけばよかった………
………と。
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