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百段もの石段を上り、いくつかの鳥居を潜り、並み居る桜の木を横目に彼は突き進んで行った。
目指すは雷の落ちたであろうこの神社の御神木。
どれくらい昔からそこにあるのかはわからないが、樹齢数百年と言われても信じてしまう程に大きな桜の木。
正直、雷が落ちた場所などわかりはしない。
しかし、何かが彼を駆り立てる。
御神木の元へと急がせる。
そして、彼は………咲良は見た。
(………………死体?)
桜の巨木、その降り積もる桜色の絨毯の中に彼女はいた。
真っ直ぐな長い黒髪を桜の根に絡ませ、白地に桜の花が刺繍されている可愛らしくも見ただけで高価な物だとわかる着物を着た端正な顔立ちをした少女。
咲良がふと【死体】と思ってしまったのはその少女の首………着物の襟首の辺りが血と思われる液体で真っ赤に染まっていたからだ。
………が、その考えは杞憂に終わる。
少女の胸が僅かに上下しているのに気が付いたからだ。
……となれば、人間的に冷たいと言われている咲良でもその少女を放っておく事など出来ない。
桜の季節とは言え、流石に夜はまだ寒い。
さらに言えば、見た目の良い少女をこのまま放置するのも気が引ける。
「おい、起きろ」
そうして咲良は少女の肩を掴み、………まだ十三、四歳くらいだろうか___見た目よりも細く軽い身体を強めに揺さぶった。
「ん……んん………」
しかし、少女はまだ目を覚まさない。
少し高めの声で呻き声のような言葉を発するも、起きる気配はない。
起きないのなら仕方がない。
咲良は立ち上がると近くにあるバケツを拾い、水道の蛇口を捻って冷水を一杯に注ぎ______
「起きろコラ」
「__ぴっっっ____ぎゃぁぁぁあああああっっ!」
眠る少女の頭に勢いよく、バケツに汲んだ水をぶちまけた。
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