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「さて、とっとと出発するですのよ」
ななかがパトカーの助手席に座り、運転する羽鳥に指示を出す。
「七荻警視。その格好はどうにかならないのですか?」
羽鳥が呆れたような声で言う。
「何か文句がありますの?乙女といえばこの格好だって雑誌に書いてありましたの!」
ななかの格好は、長い金髪をツインテールに結き、黒いゴスロリのワンピースを着用しているという状態だった。
「七荻警視の目指す乙女と、その雑誌が謳う乙女には、いささかの隔たりがあるようにお見受けしますが」
羽鳥が淡々と言う。
「乙女なら何でもいいですの」
「まあ、別にいいのですが……私は少し痛々しいような気がします」
「羽鳥、そのセリフもう一度言ってみろですの」
ななかが、怒りを露にして言う。
「七荻警視は痛い人です。英語で言うなら、『ユー・アー・ベリーアウチ』です」
「お前、やっぱりケンカ売ってますのね!?しかもその英語、絶対間違ってますの!」
ななかが、身を乗り出して言う。
「運転の邪魔です、七荻警視。だったらシンプルに『ユー・アー・フール』でどうでしょうか?」
「……もういいですの。羽鳥なんか嫌いですの。もう口聞いてやりませんの」
ななかが、プイッと横を向く。
「まあまあ、怒らないで下さい。その髪型、良くお似合いですよ」
羽鳥が、ちらっとななかを見て言う。
「……本当ですの?」
ななかが、僅かに羽鳥に向き直る。
「ええ。ツインテールというんでしたよね?とてもお似合いです」
「ふふん!まあ、当然ですの。精々私の美貌に見とれるがいいですの」
ななかが得意げに胸を張る。
「前から見ると、まるでフランス人形です」
「ふふん!そんなに褒めるなですの」
得意げに髪を揺らすななか。
「シルエットで見るとカマキリです」
「なんですとー!」
羽鳥の言葉に、ななかの新言語が炸裂する。
「森の中にいれば妖精です」
「ん?やっぱり羽鳥は私の美貌にぞっこんですのね?」
機嫌を直して胸を張るななか。
「虫かごの中にいればカマキリです」
「それはもういいですのっ!お前、本気でケンカ売ってますのね!?」
「いえ、決してそんな事は」
「…………」
車内に沈黙が流れた。
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