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しかし、木嶋は花子の思うようには動かなかった。
明らかに挙動不審な動きで、キョロキョロしながら廊下をうろついている。
これならば助けを呼びに行けたかも知れないと花子は思うが、いつ赤原達の部屋に行くか分からない以上、目を離すわけにはいかない。
息を潜め、じっと木嶋の様子を伺う。
早鐘を打つ鼓動の音が、木嶋に聞こえてしまわないか不安だった。
すると木嶋は、辺りを見回しながら式場への扉を開けて外に出て行った。
そのチャンスに、助けを呼びに行く選択肢を取れば良かった。
だが、焦った心は思考を短絡化する。
その雨宮の言葉通り、花子の脳は、既に木嶋の様子を伺う事にシフトしてしまった思考を急に切り替える事は出来なかった。
式場へ向かった木嶋を、息を潜めて追いかける花子。
今花子の心を支配しているのは、高津を殺した犯人が目の前にいるという高揚感。そしてふつふつと沸き上がって来る怒り。
ついさっきまでは持っていた、ほんの少しの冷静さも、今はすっかり無くなってしまっていた。
開いたままの扉を抜け、式場へ入る。
冷たい風も、今は全く気にならない。
相変わらずウロウロと落ち着きの無い木嶋は式場を端から端へ行ったり来たりしている。
その度に、気付かれないようにこっそりと追いかける花子。
そんな駆け引きが、どのくらいの時間続いただろうか。
ふと、木嶋が立ち止まった。
花子は、息を呑んで様子を伺う。
その刹那。木嶋が勢いよく振り返る。
手には拳銃。
狙いは――花子!!
「しまった……!!」
花子の中を戦慄が走るが、反応できない。
引き金にかけられた指が一気に引かれる。
乾いた音が、夜の闇に響き渡った。
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