物語 - 3章 - の続き

12/20
前へ
/40ページ
次へ
 2階に上がるように言われ、久しぶりの階段を登った。  幼い頃は純也もあたしも、ヒロちゃんに付いて遊びに来たり、政やんに連れられてよく来ていたのだ。  遠藤さんの下の名前、康則を、ヤスと呼ぶヒロちゃんの影響で、あたしはヤッちゃんと呼んで遠藤さんにもよく懐いていた。  小学校高学年になって、ここはヤクザの事務所なのだということを悟り、ヤクザの若頭をヤッちゃんと呼んでいる笑えない状況に気がついて遠藤さんと呼ぶように変えた。  その頃以来、数年ぶりに足を踏み入れる組事務所だった。  2階のドアを開けて組員が出迎えてくれた。  相変わらず男臭さとタバコの匂いが充満している。  どこからかガーデンが聞こえてきた。  組員が組長室をノックすると中から遠藤さんが入れと応じた。  「おう。よく来たな。久しぶりだろう。ビールか? コーヒーか?」  パーマっ毛のないアイパーで作ったリーゼントの下に優しい笑顔があった。  「こんにちは。スクーターなので、コーヒーを下さい」  いやスクーターじゃなくても、組長室で女子高生がビールを飲むのはどうだろう。  遠藤さんが組員にコーヒーを2つ命じた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

205人が本棚に入れています
本棚に追加