物語 - 3章 - の続き

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 涙が頬を伝うのが分かった。  悲しいのではない。  瞬きを忘れていた。  見つめていた歩道に、亜沙美の姿はなくなっていた。  一体何なのだ――。  目を閉じ、タオルあてて考えた。  援交を終えて出てきたところだったのだろうか。  ヤクザの総本山のようなビルで? それも朝から?  あたしの経験上それは考えにくい。  ならばあのビルの中に住んでいるのか。  ヤクザの総本山のようなビルに?  どこの奇特な人間がこんな物件に住むものか。  では一体何の偶然なのだ――。  そう言えば、あんな格好でどこへ行ったのだろう。  バッグも持っていなかった気がする。  そこのコンビニ?  そう思って顔を上げると、手にビニール袋を下げた亜沙美が右から戻ってくるところだった。  あたしは階段を駆け下りながら思った。  こんなに側にいるのだ、一声掛ければ謎が解けるはずだ。  階段から道路までの数十メートルを走り寄るあたしに、亜沙美が気づいて視線をよこした。  2、3秒こちらを眺めると、プイと視線を前に戻し、歩を緩めることなくエントランスに近づいて行く。  あたしが「待って」と声を掛けたのに被せるかのように、独特のクラクションが鳴り響き、メルセデスがビルの駐車場に入って行った。  亜沙美が立ち止まり、駐車しているのを眺めている。  メルセデスから降りたパンチパーマが亜沙美に手を挙げ、2人は談笑しながらエントランスをくぐっていった。
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