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息苦しい。
四つん這いになり、呼吸が整うのを待った。
どこをどうして帰り着いたのか。
体のどこにも痛みはなく、一応五体満足のようなので事故は起こしてない、と思う。
スクーターはあのアパートの駐輪場に停めたのか。
後で確認しなければならない。
昼を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
何とか立ち上がりって風呂場に入り、真水のシャワーを頭からかぶった。
10分くらいそのままでいただろうか。
それでも、煮えたぎった体中の血を冷ますには至らなかった。
鏡に映った自分の顔が、まるで般若のようだ。
苦労して表面上の冷静を装い、リビングに入った。
「丁度呼ぼうと思ったの。芽衣の好きなカルボナーラよ」
食欲などまるで沸かないけれど、生きる為には必要な作業なのだと自分に言い聞かせた。
ヒロちゃんと純也が会話をしているけれど、全く耳に入ってこない。
口に詰め込み、飲み物で流し込むという作業を無心で繰り返した。
美穂子さんがこっちを見て、心配したようすで何か言っている。
「ごちそうさま」
それだけ言って部屋に戻った。
政やんを失ったことで傷つき塞ぎ込んでいるように見えただろう。
真逆の、怒りに震えるさまを隠すには仕方なかった。
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